現場監督として数多くのキッチンリフォームに携わってきた経験から申し上げますと、キッチンの床張り替えにおける「設備の取り外し」には、仕上がりの向上という大きな恩恵がある一方で、無視できないリスクも潜んでいます。特に築年数が二十年を超えるような古い住宅の場合、システムキッチンを一度動かすという行為は、眠っていたトラブルを呼び起こす引き金になりかねません。まず最も注意すべきは、配管の劣化です。長年固定されていた排水管や給水管は、経年劣化により弾力性を失っており、キッチンを動かす際のわずかな振動や衝撃で亀裂が入ることがあります。特に床下で配管が複雑に組み合わされている場合、一箇所を触ることで他の接続部まで緩んでしまうケースも珍しくありません。また、キッチンのキャビネット自体も、湿気や経年による歪みが生じていることが多く、一度取り外すと元の精度で再設置するのが非常に困難になる場合があります。ネジ穴がバカになっていたり、背板が腐食して崩れかかっていたりすることもあり、無理に戻そうとすると扉の建付けが合わなくなるなどの不具合が生じます。さらに、ガス管の接続に関しては資格を持った専門業者による確実な施工が求められますが、古いガス管の中には現在の規格に合わないものもあり、脱着を機に配管全体をやり直さなければならない事態に発展することも想定しておく必要があります。実際にあったトラブルの事例では、床の張り替えのためにキッチンを一時的に外した際、床下の隠蔽部分で過去に発生していた微細な水漏れが発見されました。床材が腐食し、シロアリの被害が及んでいたため、当初の床張り替えだけの予定が、急遽下地の大掛かりな補修工事に変更となり、工期も予算も大幅に超過してしまいました。このようなリスクを避けるためには、着工前の入念な現地調査が不可欠です。私たちは、キッチンの引き出しをすべて抜き取り、点検口から床下の状態を可能な限り確認した上で、お客様に最適な提案を行うよう努めています。キッチンを動かすことは、住まいの深部を露わにする外科手術のようなものです。見た目を綺麗にするという目的だけでなく、住宅のインフラを健全な状態に戻すための絶好の機会と捉え、万が一の追加工事にも対応できる時間的、金銭的な余裕を持ってリフォームに臨んでいただきたいと考えています。